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パラメトリックX線放射詳細

パラメトリックX線放射

Parametric X-ray Radiation (PXR)

概略

相対論的な荷電粒子と結晶のような周期的ポテンシャルを持つ媒質との相互作用によって発生する電磁放射現象。1970年代の初めにTer-Mikaelianによって共鳴遷移放射の特殊ケースとして予言され、旧ソ連を中心に基礎的な理論研究が行われてきた。最初の実験的な確認は1980年代半ばにTomsk工科大学のグループによって900MeVの電子ビームとダイヤモンド結晶を使ってなされた。この現象をおおまかに説明すると下の添付図のようにX線Bragg回折の入射X線を相対論的な荷電粒子に置き換えた形になっている。 (a)X線Bragg回折と(b)PXR(1023)散乱X線のエネルギー(波長)はBraggの回折条件をほぼ満たす単色なものとなっている。あたかも荷電粒子が理想的な白色X線のように振る舞うため、結晶を回転させてBragg角を変えるだけで発生するX線のエネルギーを選ぶことができる。PXRの強度の荷電粒子の運動エネルギーへの依存性は、シンクロトロン放射ほど強くないため、数10〜100MeV程度の電子ビームによってX線の発生が可能である。この特性と波長選択性から小中規模の加速器による単色X線源の放射源としての期待が高まり、1990年代以降、日本や欧米でも実験的な研究がなされるようになった。

定性的な解釈

PXRの放射プロセスは荷電粒子の電場による媒質原子の分極の発生と消滅に伴う双極子放射であり、Cherenkov放射の摂動2次項に相当する本質的には弱い放射現象である。しかしながら、媒質が結晶の場合は原子が空間的に規則正しく並んでいるために特定の方向に放射される特定の波長成分のみが干渉効果により強められ、無視できない強度となる。ちなみに可視光領域などでよく使われる、パラメトリック散乱という現象との区別を明確にするために、quasi-Cherenkov放射などと呼びたがる人もいるが、略したときのゴロがよいこともあってPXRという呼び名がなんとなく定着している。

古典論的な描像

相対論的な荷電粒子が作る電場は実験室系で観測するとLorentz収縮によって進行方向は短くなって見える。つまり媒質原子にとっては、光速に近い速度でやってくるパルス的な電場として感じられ、X線領域の電磁波による電場と非常に似通ったものとなっている。したがって、それ以後の分極の生成消滅(仮想励起・脱励起)のプロセスも似たようなものになり、結果としてBragg条件をほぼ満たす散乱X線が観測される。

量子論的な描像
PXRは荷電粒子が伴う電場に相当する仮想光子(virtual photon)がBragg回折されたものと解釈することができる。分散関係を満たさない仮想光子が結晶との相互作用によって逆格子ベクトルに相当する運動量を得ることにより、分散関係を満たすリアルな光子として放出される。この描像の場合、仮想光子の運動量揺らぎが小さい場合は不確定性から距離の揺らぎが大きくなり、より遠くの原子との相互作用が可能となる。このことはコヒーレンス長が長くなることに相当し、結果として散乱されるX線の単色性が良いことと矛盾しない。

特性

PXRの特性として顕著なものは、特徴的な放射強度の空間分布である。

上の図のようなBragg caseと呼ばれるジオメトリで観測されるPXRの放射強度の空間分布は、PXR放射強度空間分布(423)のようになる。